「もう一度お母さんをしたい」
こんにちは、作業療法士の今堀です。
私が2年程、担当させていただいている利用者様で、左手を日常生活で使う事が困難になってしまい、家事動作をすることが何年もできていない方がいらっしゃいます。その方と、今後やってみたいことについて話し合いました。
話し合いでは「私、もう一度お母さんがしたい」と言われました。
詳しく聞くと「同居している娘の為に何でもいいから作ってあげたい。」「以前は、卵焼きを焼いたりできたが、もう数年料理をすることができていない。」と話されました。今は電子レンジで温めて食べる冷凍食品や、流水麺を流しで洗って食べることはできています。利用者様の話を参考に訪問リハビリの訓練として調理を行うことに決定しました。
今までのリハビリの効果より、キッチンで立つことや立位を保持することができるようになっていましたので、実際に料理を作ることにしました。まず、レシピや具材は利用者様に準備していただきました。また、訪問できる時間が限られているため、調理の下準備は前日から行ってもらうようにしました。
立位では不安定となるため車椅子に座り机の上で、野菜のカットや皮むきを片手で行われました。事前の準備について利用者様に聞いてみると「訪問リハビリのある前日に、やらないといけないことが増えて良いリハビリになっている。」と活動に対して前向きな言葉が聞かれました。
当日はと言うと、久しぶりの調理とのことで少し緊張されておりましたが、「カレーを作りたい」と決めておられました。
2人でキッチンに向かうと、机には材料とカットした野菜を準備されていました。私はカレーを作るのは初めてであったため、利用者様に聞きながらできない工程だけを補助することにしました。
事前の訓練場面でコンロにどの程度まで近づいて作業ができるか、片手で鍋が使用できるか、炒めることができるか、鍋を移動させることができるか等を評価し、できる様子を確認していました。そのため当日はコンロ周りでの車椅子の移動から立ち上がり、流し台での立位姿勢が安定していました。左手を流しの淵に添えるなどの工夫により姿勢が安定し、調理動作が可能でした。時々立位姿勢が不安定となるため、車椅子に座っていただいたり、疲れたときは少しお手伝いしました。
その中で「もう少しとろみが必要やからルーを増やしましょ」「味はいいんじゃない」や「きっと娘も喜ぶよ」とうのいい反応が見られました。
後日感想を聞くと「カレーは美味しかった。娘も美味しいと言ってくれて、また何か作ってほしいと言っている」と話されました。
利用者様にとってお母さんの役割を久しぶりに感じることのできる機会となり、今後もいろいろ作っていきたいと生活全体が前向きとなっています。また、料理に関して意欲が高まり、自分でできる料理を考えられる日々になっています。
「人にやってもらってばかりやったけど自立していかなあかんね」と、私に今までに話されなかった一言を話され大きな変化を感じました。
今回の活動を通して、私がリハビリをやっていて良かったと思える言葉を利用者様からいただきました。
訪問リハビリでは実際の家事動作などを通して利用者様のなりたい自分になる支援ができると思います。今回も母親の役割を再開していく支援ができたことが本人様の主体的な行動や満足感に繋がっていったのではないかと思います。今後の変化も楽しみに支援を継続していきたいと思います。
ユーティー訪問看護ステーション
作業療法士 今堀好昭